「ムーンライト・マイル」
- 出版社/メーカー: ショウゲート
- 発売日: 2004/01/16
- メディア: DVD
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結婚式を目前に婚約者を失った青年ジョー。婚約者の死後も彼女の両親と同居を続け、理想の息子を演じようとするジョーだったが、彼は彼女の死の直前に交わしたある秘密を両親に話せずにいた、、、といった筋書き
雰囲気は悪くない。よく言えば淡々とした、悪く言えば説明不足の展開。形骸的で記号化されたシチュエーションのパッチワークとも言える物語で、やや消化不良の感も否めないのだが、俳優たちの醸し出す空気感がその不足を補って余りある。とくにスーザン・サランドンが演じるちょっと毒舌で、嘘のつけない素直な性格のキャラクターが魅力的だ
結局この映画の言わんとするところは「自分に嘘をついて良い子ちゃんになるより、例え非難を受けようとも正直になった方が清々しくて良いんじゃない?」ってことだと思う
一人娘を亡くした夫婦を傷つけまいと理想の息子を演じて自分を偽り続けるジョー。正面から娘と向き合えなかったという自責の念をジョーと理想の親子関係を築くことで埋め合わせようとする父。他人の同情を徹底的に忌避し、嫌悪すら抱くことで悲しみを忘れようとする母。さらにはジョーへ想いを寄せながら、ベトナムから還る事の無い恋人を待ち続け、彼の店を守ることで自らを支えるバーティ。各々が前向きでいるフリをしながら、本当は現実を直視していない。そのままでもおそらく普通に生きていけるし、同情や、時には歓心を買うことすらできるだろう。この映画はそこに疑問を投げかける。「それでいいのかい?正直に生きた方が気持ちよくないかい?」と
メッセージはわかる。そりゃそうだ、とも思う。しかしどこか説教じみて、しかも込められたメッセージ性にある種の「軽さ」を感じてしまうのはわしだけだろうか?たぶんそれはアメリカの田舎に残る古いキリスト教社会の因習に対する挑戦がどこかに感じられてしまうせいではないかと思う。それがどうにもわしには「青い」感じがしてしまうのだ
とは言え、70年代を舞台にした物語なので、その辺の「青さ」も郷愁なのだとすれば、なんとなく許せる気はする。それ以上に俳優陣の演技がすばらしいので、それを観るだけでも十分に価値はある
気に入ったのは音楽。Tレックスやヴァン・モリスンらの曲が映画を彩り、わしのようなこの年代のロック好きにはたまらないものがある。ちなみに映画の題名にもなっている「ムーンライト・マイル」はローリング・ストーンズが71年に発表したアルバム「スティッキー・フィンガーズ」のラストに収められている隠れた(?)名曲だ
それにしてもジェイク・ギレンホールは若いがうまい。今回の役は非常に変化の付けづらい役だったので、全体的に無表情に感じられなくもなかったのだが、感情の機微を表現するのに記号的な顔の演技に頼らず、ちょっとした間を作ったり、ふっと視線を泳がせたりすることで見せるのには感心させられた。「遠い空の向こうに」のときにも感じたのだが、ちょっとこの年代で同様の演技力を持つ俳優はそうそういない気がする。今後に大いに期待が持てる俳優の一人と言えるだろう