「華氏911」
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2004/11/12
- メディア: DVD
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反ブッシュを訴えていろいろと話題になったマイケル・ムーア。この「華氏911」もイラク戦争に反対する立場をとっていることから、日本では主に反戦平和主義のヒトビトから支持の声が集まっていた。しかし実際にこの映画を観るとわかるのだが、この映画を通して一貫して感じられるのは米国に対する徹底的なまでの愛国心である
公開時にやたらとクローズアップされたブッシュの無能さや反戦的メッセージは映画の一要素に過ぎない。描かれるのは同時多発テロに対する米国政府の対応の遅さと拙さ、当該テロと関係ないはずのイラクを攻撃した政府首脳の意図、メディアを活用した「恐怖政治」の構造、大多数の貧民層を下敷きにした米国の繁栄の実態など
思うにマイケル・ムーア自身に反戦平和を絶対視するような思想は無いと思う。正義と民主主義を掲げる祖国に不正が存在し、国家が一部の支配層によって牛耳られている現状、そのことにあまりに無知な国民に警鐘を鳴らしているに過ぎない。そして彼の創作の根幹にあるのは結局のところ愛国心なのだと思う。彼が反対している戦争は、一部の人間に利益をもたらすために行われる「(米国民にとって)無用の戦争」だけである。よってこの映画を観て、なにやら自分たちの主張を強化してくれる見方を得たような気でいる反戦左翼のカタガタには「それは勘違いでっせ」と言わざるを得ない
それにしてもこのマイケル・ムーアという人、映像の切り取り方、見せ方、音楽の使い方が実に巧み。観客を画面に引き込み、最終的帰結に向けて一直線に導くための手法として効果的なモンタージュの見本を見せてくれる。これだけ政治的な内容にもかかわらず、しっかりとエンターテインメントとしても楽しめるつくりになっている点には脱帽してしまう
描かれる「真実」の数々は既知のことも多く、目新しさはあまりない。ムーア監督得意のアポ無し取材によるハプニング性も薄い。しかしながら楽しんで鑑賞できる知的エンターテインメントとしての要素には満ちているので、思想信条に関わらずまずは一度観てみてもよいのではないだろうか?