カメラと映画と日本が好き

平成27年6月にはてなダイアリーから引っ越し。岩手県在住の49歳会社員。某マスコミに近いところ勤務。家族:相方&息子 祖国の未来を憂い、特定アジアと国内の反日分子を叩くことに燃えつつ、のほほんと写真を撮ったり映画を観たりするのを趣味とする男の日々。平成26年に突如としてランニングをはじめ、現在ドハマり中

ゾディアック

レンタルDVDにて鑑賞

ゾディアック 特別版 [DVD]

ゾディアック 特別版 [DVD]

70年代に全米を震撼させた未解決の連続猟奇殺人事件「ゾディアック事件」とその解決に挑む人々を描いた作品。序盤はゾディアックの引き起こす殺人事件を再現し、サスペンスホラーのように展開するが、その後一転して事件を追う刑事と新聞記者の推理サスペンスとなり、さらにその捜査が手詰まりになり、事件そのものの記憶が人々の間から薄れゆく中なおも事件の真相を追う一人の漫画家のセミドキュメンタリー的ドラマへと変化していく

この作品、一見するとゾディアックが残したさまざまな手がかりから事件の真相を追う謎解き劇のように見えるが、作品全体を俯瞰すると、ゾディアックに憑かれた人々の顛末を描いた群像劇なのだということがわかる。実際謎解きの面白さを期待して観るとかなり肩透かしを食らうことになると思う。作品中ではゾディアックが残した暗号文を詳細に検証したりはしないし、容疑者が浮かび上がるまでの状況証拠の数々についても、ただそれらの情報を呈示するだけで殊更に視聴者に謎解きを促したりはしない。極めて淡々と時系列を忠実に追って事のいきさつを描写するだけ。しかしこの抑えた筋立てと演出が重厚な人間ドラマを描くのにはピタリと合っている。謎解きの楽しみを匂わせつつジェットコースタームービーに堕してしまった「ダヴィンチ・コード」の軽薄さとはある意味対照的。ま、事実に基づいた作品なので、そう軽くも描けなかっただけなのかもしれないが

実際にあった未解決事件を描いているので「犯人逮捕」というクライムサスペンスの必然から得られるカタルシスとは無縁。しかし、この作品にわかりやすいカタルシスなど必要ない。作品のラスト、グレイスミスが第一容疑者リーの勤める店を訪ね、彼の目を見つめるシーン、これで十分だ

面白かったのは漫画家のグレイスミスが情報提供者の映写技師ボーンに会いに行き、ゾディアックに結びつく証拠品について話を交わすうちに実はボーン自身がゾディアックかもしれないという疑念が沸いてきて戦慄する場面。普通のサスペンス映画なら、地下室でボーンが「私がゾディアックだよ」と明かしてドンパチやっておしまい!となるところなのだが、チビって逃げ出したグレイスミスはまんまと逃げおおせるし、その後もボーンに対する追及は無し。作品全体からこの場面だけが妙に浮いてしまっているのだが、もしかすると単にこういうホラー的な画が撮りたかっただけなんじゃないか?と邪推してしまった

情報の羅列と蓄積に終始する演出手法が、観る人によっては冗長ということになってしまうのは理解できる。オチのない歯がゆさと合わせて、「つまらない」という人も少なくないだろう。でもわしはものすごく面白かった。結論のわかっている話をここまで引っ張る作劇の力量に素直に拍手を送りたい