カメラと映画と日本が好き

平成27年6月にはてなダイアリーから引っ越し。岩手県在住の49歳会社員。某マスコミに近いところ勤務。家族:相方&息子 祖国の未来を憂い、特定アジアと国内の反日分子を叩くことに燃えつつ、のほほんと写真を撮ったり映画を観たりするのを趣味とする男の日々。平成26年に突如としてランニングをはじめ、現在ドハマり中

ぐるりのこと。

以前からなんとなく気になっていたのだが、一週間レンタル可能になっていたので借りてきた

ぐるりのこと。 [DVD]

ぐるりのこと。 [DVD]

90年代初頭から2000年代の10年。激変する社会情勢の中で実際に起きた社会的事件の数々を背景に、ある一組の夫婦に起こるさまざまな出来事を綴った作品

映画の冒頭、女好きの夫カナオに対し「私がしっかりしていれば大丈夫」と言い切る妻ショウコ。幼い子供の死を境に「しっかり」していられなくなる妻。一見変わらないようでいて、日常的な社会とのかかわりの中でどんどん自分を追い込んでいく描写が胸に突き刺さる

飄々としているように見える夫もまた心に陰を抱えている。自殺することで「逃げた」自分の父親に対し、壊れ行く妻から逃げないカナオ。しかしそれは意地やトラウマから来るものではなく、ただ「好き」だから。支えあうのでも、寄りかかるのでもなく、ただそばにいるという感覚が良い。この辺、リリー・フランキーの力の抜けた演技が本当に素晴らしい。情愛に余計な力こぶを込めないからこその生々しさには惹き付けられるものがある。これを「夫婦愛」などと呼ぶと途端に陳腐な感がしてしまうほどだ

作品中、法廷画家のカナオの目を通して、映画が描く時代に起きたさまざまな凶悪事件の犯人たちとその被害者家族などが登場する。極端であまりにも猟奇的な殺人者たちの所作や発言は人間の陰の部分をリアルに抉り出し、観ているこちらが辛くなってくる。そしてそれらの法廷の描写をも夫婦の物語と密接に関わってくる。幼女を殺し、死刑を望んで「逃げる」犯罪者たち、養子の死から自殺を図って「逃げよう」としたであろう継母、それらを職業として絵に描き、社会の暗部を切り取っていく夫。他方妻は自分にとって美しい花の姿を描いていく。描くことに打ち込むことで時間が経過し、子供を失った悲しみから徐々に解放されていく。そしてその間も夫婦は寄り添って生きていく。それらに正解も不正解もなく、善も悪もない。人は好むと好まざるとに関わらず、望むと望まざるとに関わらず、周囲の諸々のことと付き合っていくほか無い。だからこそカナオの「人、人、人」という最後の台詞がじわりと染み入る。どうもうまくまとまらないが、生きていくことそれ自体に対する視点がこの上もなく優しい

終盤、妻の母の家に一家が揃って失踪した父親の消息を聞くシーンが実にいい。不動産売買を生業にする妻の兄が母に家の売却を持ちかけるが、兄は父の似顔絵を見た途端に子供の頃に戻ったかのように嬌声を上げ、それまでの話の行き違いに「家族」の全員が相好を崩す。絵の中の父の幸せそうな笑顔を見て「家族」が戻ってくる。そのとき偶然にも幼子の弔いのために母が購入した水が部屋にぶちまけられ、「あとは家族で話して」と家族以外の人間が画面から姿を消す。そして父親に対するわだかまりから解放された母親が初めて夫に娘を託す。まるでドキュメンタリー映像のような何気ないシーンだが、本当に綿密に計算されていて唸らされてしまった

ショウコを演じた木村多江はもともとタイプの女優さんなのだが、この映画での彼女には完全にノックアウト。ショウコという人物のすべてが憑依したような演技に魅せられてしまった

しかしなんでこの映画が昨年の邦画No.1に選ばれなかったのか不思議。まあまだ「おくりびと」は観ていないので断言は避けるが、わしの映画の好みから言ってこれを上回ることは無いような気がするのだがなあ。とりあえず今年観た中での個人的ランキングでは暫定1位にしておこう