カメラと映画と日本が好き

平成27年6月にはてなダイアリーから引っ越し。岩手県在住の49歳会社員。某マスコミに近いところ勤務。家族:相方&息子 祖国の未来を憂い、特定アジアと国内の反日分子を叩くことに燃えつつ、のほほんと写真を撮ったり映画を観たりするのを趣味とする男の日々。平成26年に突如としてランニングをはじめ、現在ドハマり中

ノーカントリー

こちらもHDD内の録画タイトル消化

ノー・カントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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1980年代のテキサス、メキシコ国境近くの砂漠で狩りをしていたモスは偶然死体の山とでくわす。それは薬物取引の現場で起きた銃撃戦の後だった。モスはそこで200万ドルもの大金が入ったバッグを発見し、自宅へと持ち去る。夜中、危険を承知で現場へと戻ったモスは何者かに襲われる。肩を撃ち抜かれながらなんとか逃げ帰ったモスは妻を実家に避難させ、自らは大金の入ったカバンと共に逃避行に出る、、、といったストーリー。モスの命を狙う殺し屋シガー、事件に巻き込まれたモスを救おうと彼を追う保安官ベルの三者の視点で物語は展開する

冒頭から非情で不気味な殺し屋シガーの殺人が連続して描かれるので、これだけ見てしまうとただのマッドな男に思えてしまうのだが、徐々にある一定のルールに則って仕事をする特異な人物像が浮かび上がってくる。そのルールは到底常人には理解不能なものではあるが、そのあまりにストイックな態度を見ているとある種の威厳すら感じられてくるから不思議だ

シガーの殺害方法の見せ方は実に巧み。序盤は殺人の過程を丁寧に描き、シガーのルールとその手口を観客に強烈にインプットしておいて、後半になると殺人の前段となるやりとりのみが描写され、直接的な殺害シーンは省略される。結果は見なくても十分に理解できる、という鮮やかな演出が展開にテンポを生み出すと同時に重厚さをも与えている

この演出が、はっきりとは描かれないモスの最期にもしっかりと活かされているのが巧い。物語の流れから見るとモスはシガーに殺されるのが自然に思えるが、演出方法の違いからモスを殺したのがシガーではなく、モスの義母からモーテルの場所を聞き出したメキシコ人の殺し屋(マフィア?)の手によるものだということがはっきりとわかる*1

この後がさらに面白い。奪われた金を探しにやってきたシガーはこれまでどおり酸素ボンベの圧力でキーシリンダーをふっとばし、モーテルに侵入する。そこへ保安官のベルが戻ってくる。ベルはキーシリンダーが無くなっていることに気づいて中にシガーがいることを(おそらく)察知する。ここでベルは躊躇する。父の後を追って保安官になり、法の正義を信じて生きてきたベルがシガーの存在を間近に意識して萎縮する。このシーンがわからないとこの映画は意味不明だろうし、ラストのベルの夢の話もよくわからないに違いない

ラスト前、モスの妻を殺したシガーが交通事故に遭い、少年からシャツを買うシーンも良い。純粋にシガーの怪我を心配して駆けつけた少年2人が、シガーの渡した金を手にした途端その金を分けるかどうかで揉め始める。何気ないシーンだが、(少年にとっては)大きな金が無垢な少年たちに争いの種を生む描写は次元が違うとは言え、アメリカ社会の縮図のようで示唆に富む

ベルの夢の話はいろいろ解釈もあろうが「自分は父の後を追って、父を超えられると思っていたがそれはできなかった」「荒涼とした世界の中で自分の居場所はなく、できることはただ生きていくことだけ」という一種の諦観なのではないかと思う

テレビ的なわかりやすさとは無縁の映画らしい映画で本当に面白かった。この映画が「わからない」という人は残念ながら「修行不足」ということになろう。ただ凄惨なシーンが多いので何度も観たいかと言われればそれはノー。他人に「この映画面白いか?」と問われれば「自分としては」と答えざるを得ない。そういう作品だ
ポチッとな

*1:その直前に車で逃げ去る男がシガーではないことからもわかることだが