「ゲド戦記」
実は公開日に観たのでもう一週間以上たつのだが、一応感想なぞ
- 出版社/メーカー: ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント
- 発売日: 2007/07/04
- メディア: DVD
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あまり詳しく書いてしまうとネタバレになってしまうのでそれは避けるが、登場人物たちの行動原理がまったく見えてこないのが致命的。原作を読めばその辺の事情も見えてくるのだろうが、映画の尺に合わせて切り抜いたせいで前後関係がバッサリ切り落とされた格好となり、いかなるいきさつで今に至っているのかがまるでわからない。主人公アレンの生い立ち、父親を刺殺した動機、ゲドとテナーの過去、テルーの存在と位置付け、ゲドとクモの関係、「まことの名」の意味、これらの物語の根幹に関わる要素がほぼ不明。そのため画面の中の登場人物の誰が何をしても、観る側としてはボーっとその様子を眺めるよりほかなくなってしまう
近年の宮崎駿作品には登場しなかった、いわゆる「悪者」が確たる形で登場するため、物語そのものの骨格はつかみやすくなっている。かと言って主人公たちに格別の思い入れができるほどの魅力が感じられず、どうにも入り込めない。第三者として物語を俯瞰し、物思いにふけるという観方もあるかもしれないが、その割には世界観に深みがないので今ひとつ楽しめない。ユーモアを感じさせるシーンもほとんどないので子供向けとしては少々辛い作品と言える
メッセージは伝わってくる。かいつまんで言うと「生は限りあるからこそ尊く、輝きを放つ。生を大事にしなさい、そして正しき道を行きなさい」とでもいったところかな?まあ、多少雑な解釈ではあるけれども。けれどもそのテーマをあまりにも簡単に劇中の登場人物にセリフで語らせてしまう。物語の背景説明を省略しておきながら、部分的には妙に説明的になりすぎて違和感を残す。ゲドやテルーが説教じみたセリフを吐くたびに監督の「焦り(?)」が垣間見えるようでどうにも落ち着かなかった。しかし、そんな余計なことを感じる余裕があったということは、ある意味映画を楽しめていなかったことの証左と言えるかもしれない
はっきり言ってしまうとエンターテインメントとして楽しめる映画ではまったくない。ビッグマネーが動く「ジブリブランド」で売り出すには辛い作品と言わざるを得ない。と言って方々で酷評されるほどヒドイ作品だともわしは思わない。子供向け映画には「面白くはないが、ためになるかもしれない映画」というカテゴリーもあるのだし^^;
映画全体の構成は割にしっかりしている。でもこの「しっかりしている」というのが曲者。おそらく宮崎吾朗監督は非常に生真面目な人物なのだろう。生真面目さのあまり「しっかり」しすぎてしまい、ユーモアやカタルシスの入り込む余地が無かったのではないだろうか?父・駿氏は重い原作を「面白く」作りなおす職人だが、初監督の吾朗氏にはそこまでの柔軟性がなかった、ということかもしれない
作品評はさておき、近年のジブリに見られる、声の出演者の「著名人志向」はいかがなものだろうか?今回も菅原文太や田中裕子はまあ良いにしても、岡田准一の意外に低い声はまったく画面に合っていなかった。小林薫や香川照之を起用する意味もまったくわからない。ああいう「ポッと出」オヤジキャラが得意な声優ならほかにいくらでもいるだろうに。今やジブリ映画は声に誰を起用しようが興行成績にさほどの影響を与えるとも思えないほどの人気を確立している。今更話題づくりのキャスティングは必要ないと思うのだが。それとも無理にでも「アニメ声優」以外をキャスティングしているのは「ジブリ」のブランドイメージ維持のためなのだろうか?