カメラと映画と日本が好き

平成27年6月にはてなダイアリーから引っ越し。岩手県在住の49歳会社員。某マスコミに近いところ勤務。家族:相方&息子 祖国の未来を憂い、特定アジアと国内の反日分子を叩くことに燃えつつ、のほほんと写真を撮ったり映画を観たりするのを趣味とする男の日々。平成26年に突如としてランニングをはじめ、現在ドハマり中

レミーのおいしいレストラン

待望のピクサー最新作「レミーのおいしいレストラン」が公開されたので吹き替え版を相方と観にいった

レミーのおいしいレストラン [Blu-ray]

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一言で言って「やはりピクサーは外さない」。わしの中で映画ブランドの信頼性トップの座を確固たる物にしつつある
ネズミがレストランに入る、という絶対御法度の行為をストーリーの根幹に置いていることがまず面白い。この映画で描かれるレミーという名のネズミは現実世界のネズミ、即ち、あくまで人間から見て忌むべき存在として描かれる。ミッキーマウスも料理したり、音楽を奏でたりするが、そこで描かれているのはショートパンツを履き、二本足で歩き、犬まで飼う擬人化された存在。あくまで愛すべきキャラクターとしての姿であって、本来人間が持つネズミに対する悪感情は忘れ去られている。本作品はこの矛盾をうまく突いている。しかもこれをディズニーの大看板の下でやってしまう大胆さがスゴイ

この作品の監督ブラッド・バードはかつて「アイアン・ジャイアント」という映画で、無機的な鋼鉄の巨人に魂を吹き込み、愛すべき存在として描き出すことに成功していたが、本作でも同様の試みを行っている

作品中、ネズミのレミーはやはり人間から見れば駆除の対象、忌み嫌われるものとして描かれる。しかし「汚い」「気持ち悪い」と言われるネズミが人間社会の中に飛び込んでいく過程の中で、料理人(ネズミかw)としての自分とネズミとしてのアイデンティティーの狭間で葛藤する姿に、観客は共感し、同情し、応援してしまうようになる。これはまさに先に書いたミッキーマウスとはまったく違う形態を採りながら、同様にレミーを愛すべき存在にまで昇華させてしまったわけで、ディズニーの手法に対する強烈なアンチテーゼと言えよう

問題なのはネズミのレミーがこれだけ自己矛盾と葛藤に苦しみ、それでも自発的に前進しようともがく過程が描かれるのに対し、人間のリングイニがあまりに無能で受動的なキャラクターとして描かれている点。レミーとともに彼の成長も描く展開になっていればもっと評価できたのだが、結局彼の取り得はローラースケートが上手いことくらいしか描かれずじまい。まあ、もっともこれでリングイニが少しはデキル人間だったら、レミーにマリオネットのように操られる彼の姿が、素直に笑えるものにはならなかったのかもしれないが

人間のキャラクターで気に入ったのは評論家のイーゴ。棺おけのような彼の書斎やタイプライターがドクロに見えるなどの視覚的演出が個人的にツボ。レミーの作ったラタトゥーユを食べたイーゴが瞬間的に幼い頃に帰っていく場面には思わず吹き出してしまった。家弓家正の声も嫌味な辛口批評家にピッタリ。最後にイーゴのモノローグで語られる評論文の中で、評論家という業に対する自省が語られるのだが、これなど創作者の側から見た評論という作業の本質を真正面から暴き出して見せたもので、映画評論家を敵にまわしはしないかとつい心配してしまったほどだ

エンターテインメントとしての本道を外さずに、これだけの内容とメッセージ性を紛れ込ませてみせたブラッド・バードの手腕は見事の一語に尽きる。ネズミが生理的にダメという人以外なら楽しめることだろう