カメラと映画と日本が好き

平成27年6月にはてなダイアリーから引っ越し。岩手県在住の49歳会社員。某マスコミに近いところ勤務。家族:相方&息子 祖国の未来を憂い、特定アジアと国内の反日分子を叩くことに燃えつつ、のほほんと写真を撮ったり映画を観たりするのを趣味とする男の日々。平成26年に突如としてランニングをはじめ、現在ドハマり中

善き人のためのソナタ

WOWOWで録画したものを鑑賞。眠気と戦いながらだったので結局3日に分けて観ることになってしまった

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

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最初に言っておくと決して暗いだけの映画ではない。観てない人はぜひ観て欲しい作品なので、大事なところはなるべく伏せるが一応隠しておく
80年代未だ東西冷戦下にある東ベルリン。国家保安局(シュタージ)のヴィースラー大尉は自らの出世を見返りに、劇作家ドライマンとその恋人で女優のクリスタの監視を命じられる。ドライマンのアパートに盗聴器をしかけ、屋根裏で日夜盗聴を続けるヴィースラー。だがヘッドホンから聞こえてくるドライマンとクリスタの人間性、愛し合う二人を引き裂く権力者のエゴと腐敗に接するにつれ、次第にヴィースラーの心に変化が生じ始める、、、といったストーリー

ヴィースラーはひたすら真面目に職務のためだけに生きてきた人間なのだろう。そのためには人間性を押し殺すことにもためらいのなかった彼が、ドライマンとクリスタが激しく愛し合う様を聴き、自宅に戻った後娼婦を呼ぶシーンが印象的。鉄面皮のヴィースラーがはじめて見せる人間らしさが性欲というダイレクトな形になって現れるのが強烈。さらにコトを終えた後の彼の「もう少しいてくれないか?」というセリフによって、孤独なひとりの男としての側面も描かれる。このシーンではシュタージの人間が日常的に娼婦を買っていることをも匂わせており、体制の歪んだ構造を垣間見せる重要なシーンにもなっている

ひとつ納得が行かなかったのは、一度は保身のためにヘンプフ大臣に身を預け、それを悔いてドライマンのもとに戻ったクリスタが、再び保身のためにドライマンを裏切ったこと。そこまで自分大事の弱い人間に描いてはいなかったと思うのだが、逮捕されてからドライマンを売るに至るまでの展開があまりにあっさりし過ぎ。例えば、恋人と別れてでも女優であり続けたい、というクリスタの執念のようなものが描かれていれば納得もいくのだが

この映画、シュタージによって東ドイツの人々が受けた心の傷を描きたいだけのものだったのなら、ドライマンを裏切って自責の念に駆られたクリスタが非業の死を遂げる場面で終わっても作品としては十分成立したことだろう。ただし「善き人」に目覚めたヴィースラーも当局の監視から逃れたドライマンのいずれも救われない、重く悲しい作品となったはずだ。しかしこの映画の作者は実に優しい。月日を経て真実を知ったドライマンは自分を救ってくれた人物を探し出すのだが、かける言葉が見つからない。ドライマンの思いはさらに2年の歳月を経て、著書という形でヴィースラーのもとへ届く。ラストシーン、一瞬笑みに似た表情を浮かべながらのヴィースラーの言葉。そこに伴う感情がほんの微かなものだからこそ、美しく、気高い結末となっている